命守る帯-フルハーネス義務化・上/業界主張「5m程度」で決着

 ◇方針先取りするゼネコンも
 建設現場で働く人に欠かせない装備「安全帯」。厚生労働省が、高さ5メートル程度以上の場所で作業する際に着用する安全帯を、胴体部全体を支持する「フルハーネス型」に限定する方針を決めた。後を絶たない墜落・転落事故に対する安全対策の強化が狙いだ。着用義務が始まるのは早ければ3年後。建設業界や安全帯メーカーも対応を迫られる。(編集部・片山洋志)
 フルハーネス型の安全帯は肩や胸、腰、ももなどをベルトで保持する構造。これに対し、現在の現場で広く普及しているのが、1本のベルトを腰に巻く「胴ベルト型」の安全帯だ。
 墜落・転落時の安全性はフルハーネス型に軍配が上がる。体にかかる衝撃が分散され、万が一宙づりになっても内臓が圧迫されにくいためだ。厚労省によると、過去10年(06~15年)の間にフルハーネス型着用者の死亡事故は確認されていない。一方、胴ベルト型では、宙づり時にベルトがずり上がって胸などを圧迫されたことなどによる死亡事故が6件起きているという。
 国内の主要安全帯メーカーでつくる日本安全帯研究会によると、15年度のフルハーネス型の出荷数は約13・8万本。胴ベルト型はほぼ10倍の約127万本で、全体の約9割を占める。安全性がより高いフルハーネス型の普及が遅れている大きな要因がコスト。厚労省によると、価格は約2万円と胴ベルト型の5倍程度する。もう一つ、着脱時や作業時の煩わしさも敬遠される一因だ。
 厚労省は、フルハーネス型の着用が国際標準となった2000年頃から義務化を何度か働き掛けてきたが、費用負担の増加などを懸念する業界などの反対で見送ってきた。それがここへ来て義務化を決断した背景には、建設現場での墜落・転落による死亡労災が後を絶たないことがある。建設業の労災死亡者数は減少を続けているが、それでも昨年は134人(前年比6人増)が墜落・転落事故で死亡。原因別で半分弱を占める状況が続いている。
 フルハーネス型の着用義務化は、厚労省が建設業団体も交えて設置した有識者会議が6月にまとめた報告書に盛り込まれた。着用義務の対象を「5メートル程度以上の場所で作業」とする高さ基準は厚労省の判断で、報告書に具体的な数字は記載されていない。同省は業界への聞き取り調査などを基に、この高さならフルハーネス型の安全性能が十分に発揮されるとみており、「有識者会議の委員全員が納得した報告書になった」(労働基準局安全衛生部安全課建設安全対策室)と説明する。
 厚労省は、安全帯の着用規定を盛り込んだ労働安全衛生規則(省令)を17年度中に改正。安全帯の構造規格も国際標準化機構(ISO)の規格に合わせて18年度初めに見直す。省令は公布から2~3年以内、告示は約半年以内に施行する。安全帯の買い換えの目安となる標準耐用期間は約3年。このため実際にフルハーネス型の着用義務が始まるのは最短で3年後の20年ごろになる見通しだ。
 建設業界では、こうした方針を先取りするようにフルハーネス型を導入する動きも出てきた。前田建設は高所作業でのフルハーネス型の着用徹底を打ち出した。鴻池組は18年度から二丁掛けタイプの着用を義務付ける方針を表明した。一方で、着用義務化と構造規格の見直しによる費用負担を懸念し、「厚労省には補助金を出してほしい」(準大手ゼネコン安全担当者)と訴える声もある。

(様より引用)