水害を乗り越えて・上/鬼怒川決壊2年/地域に人が戻ってきた

 ◇新たな総合対策の原点に
 「2年前は先が見えなかった。今は家が建って戻ってきた人もいる。素直にうれしい」。15年9月の関東・東北豪雨で堤防が決壊した茨城県常総市の上三坂地区。ここに暮らす芦ケ谷香織さんは、整備された堤防の上で笑顔を見せた。
 災害発生直後の夜通しの復旧作業などを思い出し、「建設会社の人たちを本当にありがたいと思った」と振り返る。 
 関東・東北豪雨では、茨城県内の鬼怒川で堤防決壊のほか、大規模に水があふれる溢水(いっすい)や漏水が多発。流域の約40平方キロが水に漬かった。国土交通省関東地方整備局や茨城県などは、延長約44キロにわたって行うハード・ソフト対策を総合化した「鬼怒川緊急対策プロジェクト」を推進。8月までに45件の工事が完成した。石井啓一国交相は10日に現地を視察し、「順調に進んでいる実感がある。ハード対策を20年度の完成へ向けて着実に進めたい」と語った。
 対象地域全体で見ると、工事はこれからがヤマ場となる。8月末時点で約64ヘクタールの用地買収を実施しており、測量・地質調査はおおむね完了した。施工の効率化に向けては、建設現場の生産性向上策i-Constructionを積極的に導入している。
 本年度からは、国交省が新たに策定した統一ルールを踏まえ、出水期にも一部工事の実施を試行。常総市新石下地区などでは、非出水期中に計画高水位(HWL)までの築堤などを完了させ、出水期に仕上げ作業を進めた。これにより、台風シーズンに入る前の先月26日には、整備が進んだ姿を地域住民に披露することができた。河川工事の施工時期の平準化や「働き方改革」にも寄与すると注目されている。
 大規模災害では、大手から地場企業まで建設産業全体の底力が試される。同局は、地域建設企業が経営基盤を強化し技術を磨くことが将来への備えになるとして、一部工事で茨城県内を地域要件に設定する取り組みも進めている。同局の里村真吾下館河川事務所長は「地域を強くする事業を通じて、地域を守る建設業にも強くなってもらいたい」と狙いを話す。
 続々と進む治水対策。地域からは「これだけ立派なものができれば安心だ」(常総市若宮戸地区の住民)との声が上がるが、過信を招いてはいけない。国交省は、鬼怒川・小貝川流域で、地元自治体らと連携して減災対策協議会を設置。逃げ遅れゼロに向けた避難や水防活動などを柱とした「水防災社会の再構築」に力を注ぐ。同様の取り組みを全国に広げており、鬼怒川の決壊地に設置された記念碑は、その「原点」(石井国交相)となる。
 住民一人一人の防災行動計画となる「マイタイムライン」の普及も意識啓発に寄与するとみられ、1日には、常総市内の小中学校の防災訓練で初めて取り入れられた。同市の神達岳志市長は「水害のイメージを払しょくした防災先進市を目指したい」と意気込む。
 関東・東北豪雨は、水害の恐ろしさを改めて想起させた。首都圏は元来、大きな水害リスクを抱えている。その事実を示す出来事が70年前にも起きている。

(様より引用)