シリーズ・国のかたちを考える2018/コマツ相談役・坂根正弘氏

 ◇IoTが重層構造を崩す
 各国の実質国内総生産(GDP)を比較すると、日本はバブルが崩壊して以降の25年間で1・26倍、一方ドイツは1・43倍、米国が1・68倍の伸びとなっている。名目GDPで見た場合、日本が1・1倍にとどまっているのに対し、ドイツは2・3倍、米国は3倍と大きな開きがある。実質GDPが国の実力を表すものと言われるが、そうであれば日本の名目GDPは今頃800兆~900兆円になっていたはずだ。そして、この間に国が得られた税収増は300兆円位になっていたと考えられる。
 生産性というのは投入された工数に対して生み出した価値を金額で表しているもので、われわれ企業の売り上げも名目で表されている。国全体の名目GDPが25年間で1・1倍にしかなっていないのに、生産性が上がる訳はない。名目GDPが伸びてこなかった大きな要因の一つに、日本固有の雇用システムに原因があったと考えている。
 日本では戦後の高度成長期を経て、社会や企業が「雇用第一」「終身雇用」といった概念に縛られ続けてきた。業績不振で雇用に手を付けるのは経営者失格と言われ続けてきたことから、多くの大企業が雇用を守るために、事業の多角化や子会社化に走る。そうして景気変動の影響を受けると全体収益が悪化していく。この経営思想が日本の深刻なデフレを生んできたと言えよう。
 日本は欧米諸国などと違って直接雇用した労働者の雇用調整が難しいことから、仕事を下請に委託する。下請側も同じように考え、さらにその下請に仕事を出す。こうしたことを製造業も建設業も延々と続けてきたため、ここまでの重層下請構造となった。その結果として各層の固定費が積み重なり、国全体としての生産性を低下させてきた。
 しかしながら、日本の雇用システムにはいい面もある。特にものづくりで重要な現場力は、雇用がしっかりと保証されてきたからこそ発揮できたものであり、安定した雇用環境はチームワークを生み出す源泉でもあった。
 これから少子高齢化による人手不足の問題がより深刻化していく中で、企業は雇用面から、従来構造のままでは事業を継続できなくなるという難題に直面しており、この問題と同じタイミングで本格的なIoT(モノのインターネット)社会の到来を迎えた。
 IoT社会では、これまで分担されていた仕事がつながり、一気通貫の流れに変わることで必然的に重層下請構造も崩れていく。日本が本質的に抱えていた雇用面での問題をここで打開できるかどうか、大きな転換点を迎えていよう。重層構造で積み重なった固定費の削減と高効率な生産システムへの再構築を進めながら、日本らしさも生かした最適解を見いだしていかなくてはならない。
 (さかね・まさひろ)1941年1月生まれ。63年大阪市立大工学部卒、コマツ入社。89年取締役、90年小松ドレッサーカンパニー(現コマツアメリカ)社長、01年社長、07年会長などを経て13年から相談役。

(日刊建設工業新聞様より引用)