シリーズ・国のかたちを考える2018/東京理科大学特任副学長・向井千秋氏

 ◇宇宙滞在技術が日本を成長に導く
 宇宙開発には50年ほどの歴史がある。これまでやってきたことを基に、次の50年をどうしていくかという過渡期を迎えている中、日本が今後注力するべきは衛星やロケットといった宇宙に行ったりする手段でなく、宇宙滞在に必要な衣食住の技術開発と考える。宇宙ステーションでの滞在時間はロシア、米国に次いで日本が3番目に長い。現在、宇宙ステーションには地球から食べ物や水などを持っていく。太陽電池を使っているため、自給自足できるのはエネルギーくらい。これが月面基地になると、地球から必要なものすべてを運ぶわけにはいかない。そこでは自給自足が必要であり、エネルギー利用の効率化やごみ処理の簡易化、さらにリサイクルも可能な空間をつくらないといけない。
 こうした技術は、地球上の砂漠や被災地など特殊な環境条件でも有効に活用でき、安全・安心な暮らしや国土の強靱(きょうじん)化、食糧問題の解決、経済の活性化にも寄与する。宇宙滞在技術の研究は資源のない日本が生きていく一つの手段と言えよう。資源のないことが、逆に新しい技術を開発していくための強いバネになる。
 東京理科大は、宇宙滞在技術の研究を進める「スペース・コロニー研究センター」を設置した。月面で発電・蓄電、植物栽培、水や空気のリサイクルが行えるなど、衣・食・住のすべてを完結させるシステムづくりが目的だ。民間企業と連携した相乗効果により大きな成果を出したい。日本は外部資源の依存度を少なくし、エネルギー利用の効率化など循環型社会をつくる必要がある。これは資源を効率よく生産して使い、自立性を高めるという宇宙滞在技術に関わる研究の方向性と完全に一致する。
 衣食住の「住」については、「家の中は外」をコンセプトに、宇宙の閉鎖空間にいながら、地球上で屋外にいるのと同じ感覚が得られる環境を創造したい。例えば光や風をコンピューター制御し、バーチャルリアリティー(仮想現実)技術なども活用すれば宇宙飛行士は四季を感じることができる。五感も刺激され、寝たきりの方や足腰が弱くて外出できない方にも効果的なシステムになろう。宇宙では地球と比べて体力の衰えが早い。極限空間での滞在技術や体力を回復させるリハビリテーション技術は地球上の生活にも有効活用できる。
 異業種が組んで新たな事業や市場を創造していく海外と比べ、縦割り社会の日本は個々の専門性が強く、なかなか融合しない。宇宙飛行はチームとしての融合が欠かせず、チーム全体で何ができるかで評価される。個々がどう融合し、皆が助け合っていけるか。こうした仕組みを作らなければ成長は難しい。
 (むかい・ちあき)1952年群馬県生まれ。77年慶応大医学部卒。医学博士。日本人初の女性宇宙飛行士として1994年にスペースシャトル・コロンビア号に搭乗。2015年に東京理科大学副学長、16年から同大特任副学長。

(日刊建設工業新聞様より引用)