シリーズ・国のかたちを考える2018/漫画家・羽賀翔一氏

 ◇繊細な意識と仕事の積み重ね
 『漫画 君たちはどう生きるか』は、小説の概要をつかむ目的で漫画にするコミカライズではなく、漫画として独立した面白さのある作品にしようと取り組んだ。でもこれまで原作がある漫画を描いたことはなく、吉野源三郎氏の名著をどれくらい変えて、また変えないのか。そのバランスを見極めるのが難しかった。
 これほど多くの方々に読んでもらえる作品になるとは思っていなかった。中でも中高生の読者は、主人公のコペル君が深く落ち込み、思い悩むシーンに共感してくれているようだ。悩んでいる渦中の人というのは俯瞰(ふかん)できない。自分もそうだった。今、自分が立っている位置や行為にどういう意味があるのか。それを俯瞰的な「引き」で見ることができ、同時に「寄り」も駆使しながら物事の考え方について問い掛けをしているところが、若い人たちには新鮮だったのかもしれない。
 この作品とほぼ同時進行で描いていたのが、雑誌『PRESIDENT NEXT』に連載していた「ダムの日」という漫画(後に『昼間のパパは光ってる』のタイトルでコミック化)だ。ダム建設に携わる若手技術者が主人公で、実際のダム現場に伺って取材した。
 取材で分かったのは、現場で働かれている人たちの細かな意識や仕事が積み重なり、あの巨大なダムが形づくられるということ。漫画の中で、主人公の生沼が土木工事の現場を見て「手術みたいなものなんだね」と話す。漠然と大きなものを造っているという切り口で表現するのではなく、繊細さを求められる工事には「手術」という比喩が合っていると考えた。これは『君たちは…』から影響を受けた表現であったと思う。
 一方で『君たちは…』の漫画にはコペル君が粉ミルクの缶を手に持ち、自分のところにたどり着くまでにいろんな人が関わってきたことに頭を巡らせる場面がある。逆にここは『昼間のパパは…』の作品づくりで知ったインフラ整備のことをイメージしながら描いている。水道の水を使えるのもダムなどのインフラを造っている人たちのおかげであり、そうやってイメージがつながっていった。つまりこれら二つの作品はかなり影響し合いながら描いたものと言える。
 漫画とは自分の想像力だけが頼りで、あとは机に向かって描くものだと思っていた。でも結局は人と会い、現実との接点を持たなければ、描こうとする人の言葉や表情をリアリティーのあるものにはできない。このことを『昼間のパパは…』の作品づくりに協力していただいた土木界の方々に学ばせてもらった。以前の自分であったら『君たちは…』は描けなかっただろう。これからも自分なりの漫画の作り方をもっと追求し、いろんな人たちとも出会っていきたい。
 (はが・しょういち)1986年茨城県生まれ。学習院大学卒。代表作は『インチキ君』、『ケシゴムライフ』、『昼間のパパは光ってる』など。17年8月発刊の『漫画 君たちはどう生きるか』は発行部数200万を超える大ヒットに。Twitterアカウントは@hagashoichi。『ケシゴムライフ』と『昼間のパパは光ってる』の新装版が3月にマガジンハウスから発売。

(日刊建設工業新聞様より引用)