命守る帯-フルハーネス義務化・下/構造規格見直しに業界注目

 ◇商機にらむメーカー・販売店
 フルハーネス型安全帯の着用を義務化する厚生労働省の方針に対し、建設業界には比較的冷静な受け止め方が広がっている。着用を義務付ける作業場所の高さは5メートル程度以上。業界側もかねてこの程度の高さを主張してきた経緯があり、厚労省との事実上の「合意事項」と捉えているからだ。
 現段階で業界側が注目しているのは、構造規格の見直し内容。ここが当面の焦点になりそうだ。
 安全帯のメーカーによると、現在市販されているフルハーネス型安全帯の中で大部分を占めているのが、胴ベルトが不要な「ももベルト水平型」と呼ばれるタイプ。とび工を中心に日本の建設現場の伝統的な作業服として根付いている下半身回りがゆったりしたニッカーボッカーの上からでも比較的装着しやすいため、多くの作業員に好まれているという。
 一方、厚労省は構造規格の見直しで、国際標準化機構(ISO)が運用する規格に基づき、ももベルト水平型の改善を進める方針だ。ISO規格には、装着したベルトをずれにくくするため、骨盤の位置にフィットさせるよう規定されているからだ。
 厚労省は10~11月ごろまでに建設業界や安全帯メーカーなどの関係者に参加を呼び掛け、構造規格の細則となる任意規格の日本工業規格(JIS)の見直し作業に入る。規格の変更や一斉の買い換えは建設業界にとってはコストアップにつながりかねないだけに、警戒する声もある。
 「作業員は使いやすい道具にこだわる。専門業者などの意見を取り入れる必要がある」(大手ゼネコン関係者)。コスト以外に使い勝手に注文を付ける声も少なくない。
 一方、安全帯のメーカーと販売店にとっては大きな商機になる可能性がある。
 「フルハーネス型の生産を大幅に増やす必要がある。現在はフルハーネス型と胴ベルト型の生産割合は1対9。これが逆転するかもしれない」。関西地方に本社を置く安全帯メーカーの営業担当者はそう指摘する。東京都内で業務用安全衛生用品を扱う販売店の営業担当者も、このメーカーと同様に販売割合の逆転を予測する。
 ただ、メーカーと販売店も商機への期待一辺倒ではない。建設業界と同様に、懸念材料はコストだ。構造規格の見直し内容によっては、フルハーネス型の製造コストが今よりも高くなる可能性があるからだ。製造コストが上がれば、それは販売価格に転嫁せざるを得ない。
 厚労省は、フルハーネス型の価格について、構造規格を見直しても現在とほぼ変わらないと見込んでおり、業界から求められている購入費に対する補助の導入も考えていない。だが、メーカー側には「有識者会議の報告書だけでは構造規格の見直し内容を読み切れない。製造コストが変動するのか、変動するとすればどの程度の幅か、現時点では何とも言えない」(メーカー関係者)との声がある。当面は様子見ということになりそうだ。
 危険な高所の作業で命を守る安全帯。フルハーネス型が義務化されれば、その効果も胴ベルト型と比べて大幅に増すことになる。この安全強化策を現場で十分に生かすために、行政、建設業界、メーカーの一層の協力が欠かせない。
 (編集部・片山洋志)

(様より引用)